き(聞こえるよ、君の声)


僕の心にぽっかりと開いた穴の隙間を埋めるものは何も無く、
空白の二文字がそこを支配している。
あの日、あの時の君の思い出は、いつの間にか心の隅に追いやられ、住処を無くしていた。
それは僕の弱さからなるもので、君のせいじゃない。
あの日、僕を庇って死んだ君。
最後に叫んだ僕の名前。まだ響いてる。
人の命の儚さを、あの時初めて知ったんだ。

最近よく同じ夢を見る。
僕は空に浮かんでいて、君は血の海で溺れてる。
手を差し伸べれば助かるのに、でも、どうしたらいいのかわからない。
手足をばたつかせて、必死にもがいている君をただ眺めているだけで。
君は必死に僕を呼ぶ。
僕は何をすればいい?

君は幸せだったかい?
先にはもっと沢山のことがあったかもしれないのに。
もっと楽しいこと、悲しいことがあったはずなのに。
君はそれで良かったのかい?

あぁ。確かに聞こえるよ、君の声。
まだ僕を呼んでいるんだ。
僕を庇って死んだ君。
心を支配するのは、君の声。