あれは…いつだったっけな。 私は風邪をひいてしまった。 だから布団の中で天井を見つめながら、大人しく寝ていた。 そしたら、あいつがわざわざ見舞いに来てくれたんだ。 嬉しかった。 親は仕事に出ていたから、あいつは自分が持ってきた林檎を剥いてくれた。 「前で剥いて」って言ったら、あいつは恥ずかしそうだったけど、ちゃんと目の前で剥いてくれた。 すらすらと皮が落ちていく。私なんかより断然上手い。 きっとあいつは家でいっぱい家事の手伝いをしてるんだろうなぁ。そう思った。 りんごは美味しくて、ひりひりしている喉には格別で。 あいつに感謝した。 「ありがとう。見舞い来てくれて。林檎も剥いてくれたし」 「いいって。それより、早く元気になれよ」 照れくさそうに少し視線を外して、あいつが言った。 あいつの優しさとかわいさに、思わず胸がぎゅっとなった。 後々、寂しそうにしている私を見かねて母さんがあいつを呼んだ、ということを聞いた。 それでも家に来てくれたあいつの優しさに感謝した。 あいつとのじんと胸にきて、嬉しい思い出だ。