優しい涙


昼下がり

こたつの中でうずくまってるコイツ、たま。
たまと一緒にこたつの中でぬくぬくとしている私は、みかんを頬張りながらシャーペン片手に宿題中。
正座して、額には「必勝!」なんて書いてある受験で使った鉢巻き巻いて、それでも近くには漫画なんかあったりして、
気軽に冬休みを過ごしている。
けれど数学の問題がもう20分近く解けないでいた。
「うぅ…またスタート地点に逆戻りぃ〜…」
さっきから同じ問題を何度も何度も読み返して、同じような数式を何度も何度も書いたり消したりの動作を繰り返していて、
机の端には大量の消しカスが散らばっていた。
それでも、焦る気持ちとは裏腹に、母さんは台所で「今日のご飯は何にしようかな♪」なんて口ずさんでいる。
パソコンから聞こえる音楽。たまのごろごろという喉の音。
時間は私だけを置いて通り越していく。

何でも無い日の昼下がり。

問題が解けない。
たまがごろごろいわせながら膝に擦り寄ってきた。
「もぅ、たま、うっとうしいよ!」
髪をくしゃくしゃっとかいて、舌打ちをする。
苦手な数学が解けないでいるのをたまのせいにして、またみかんを剥き始めた。
「よし、こういうときは一呼吸置いて…と。数学はひらめきが肝心なんだよね」
「みかんを食べたらひらめくのかしら」
聞こえなかったフリをして、みかんを頬張りながら、問題集に目を向ける。
よいしょ、と向かいに腰を下ろしたのは、姉ちゃんだ。
今年社会人となった姉は、今日は仕事が休みらしい。
にゃぁ〜、といいながら姉ちゃんに擦り寄るたまを「おはようたまw」なんて言いながら抱き上げている。
じゃれ合ってる2人が、今度はうっとうしくなってきた。
「あぁあ、今日天気予報じゃぁ晴れだ、って言ってたのになぁ…」
窓の外を遠い目で見ている姉ちゃんが、ふいにそうこぼした。
どす黒い雲に覆われた空は、晴れる気なんてないよ、と言っているかのようで。
ごもごもとした分厚い雲からは、大粒の涙が次々と流れ落ちていた。
「何、姉ちゃん。どっか行く予定でもあったの?そういえば寝巻きとかじゃないし」
見れば姉は、出かけるような服装で、化粧もばっちりしていた。
「ん〜、別に無いけど…」
口を濁す姉を問い詰めるつもりもなく、ただ「あぁそう」とだけ返してまた参考書に視線を戻した。

雨の日の昼下がり。

窓を叩きつける雨音がうっとうしい。
「ここ最近雨降ってばっかだねぇ」
母さんがお菓子を手にやってきた。
はい、と言って少し熱めのお茶を渡してくれる。
「お、サンキュー。たまには外に出たいなぁ。気晴らしに買い物でもしたい」
たま、という言葉に反応したのか、たまが一声にゃぁ、と啼いた。
今度は姉ちゃんから離れて、母さんの方へと移動する。
そこでまたごろごろと喉をならした。
私はまた参考書へと目を移した。
「aが35だから…」
「教えてあげよっか?」
負けず嫌いの性格も手伝ってか、私は途中でこの問題を放り出す気はさらさら無かった。
姉ちゃんの心遣いは嬉しいけど。
「いや、いい。こいつとは自分ひとりの力で決着を着けたい」
「そう。じゃぁ頑張りな」
と言って、窓の外に目をやりながら、姉ちゃんはみかんをむき始めた。
姉ちゃんの頭の良さが少しでも私に受け継いでればなぁ、と思いながら鉢巻きを結びなおす。
もう少しでゴールが見えるような気がする…!
私が問題集とにらめっこしている間は、音楽とたまの喉の音と雨音だけが静かに流れていて。
ゆったりとした時が流れているように感じた。
頭の中では公式が忙しく駆け巡ってるけど。

穏やかな時の昼下がり。

突然、頭に何かがひらめいた。
「あ!わかった!」
頭の中を整理しながら数式をノートに書いて、導き出した答えを書いていく。
足が縺れるようにこんがらがりながらも、白いページが式で埋まっていった。
「よし!さてと、合ってるかなぁ〜…」
答えの本を捲るより先に、姉ちゃんが横目で私の答えをちらりと見て、「合ってるよ」と呟いた。
たまがそれに合わせてぅにゃぁ〜と啼く。
一応答えを確かめた。合ってる。完璧!
「やったぁ、出来た!」
マラソンで完走しきったときのような満足感が、心を満たす。
それと脱力感も一緒に手伝って、私はへにゃへにゃとこたつの中に沈み込んだ。
「お疲れ様。よく頑張ったね」
母さんはお茶を飲みながら、まるで自分のことのように微笑んでいる。
私もつられて笑みを浮かべる。
「あ、雨がやんだ!」
姉ちゃんの嬉しそうな声に、窓の方へ目を向けた。
さっきの真っ黒な空とは打って変わって、晴天だった。文句ない空色。
小さな鳥が2羽、嬉しそうに、まるで追いかけっこしてるみたいに飛んで行った。
それの奥に見えた眩しい光の中に、色とりどりに光るものがあった。
「見て、虹!」
7色なんてもんじゃない。
地の端と端を結ぶようにかかっているそれは、澄み切った空で余計鮮やかに見えた。
「あんな綺麗な虹、見たことない!」
「きれいね…」
「大きいねぇ」
「にゃぁ」
晴天の空に架かる大きな虹は、頑張った私へのご褒美のような気がして。
知らず知らずのうちに満面の笑み。
「天気予報、当ってたじゃん。姉ちゃん」
「そうだね。じゃぁ早速買い物に出掛けましょうか」
「あれ、もしかしてその為に着替えてたの?」
「勿論。優しい姉貴でしょ」
「それはどうかな…」って小声で言うと、
「ぁいてっ」わき腹を小突かれた。

晴天の日の昼下がり。

虹の下をくぐって、水溜りを飛び越えて。
「ほら、早く!」

外へと出掛けよう。

感想室:
 ぶっちゃけ、思いつきと勢いで作った短編小説です(笑)
 しかし今はもう無き1代目のBBSに、良いコメントをいくつか頂いた記憶が…
 ありがたいことですο(_ _*)ο
 そして“うっとうしい”を“うっとおしい”と書いていた記憶が。(笑)
 文才なくてスミマセン。

 ここまで読んで頂き、ありがとうございました。